『 あの子と この子と ― (2) ― 』
§ かんかん照りの午後
かんかん照りの日は ちょっと不思議。
いつもの世界が 真っ白けになっちゃう
かんかん照るお日様は ちょっと不思議。
遊びなれた道が ちがう場所にみえる
かんかん照りの日は ― ちょっと面白い
きっぱり晴れの午後は ― ちょっとだけ 冒険!
かんかん照りの日は ・・・
たったった ・・・・ ふんふんふ〜〜〜ん♪
少し外れたハナウタと一緒にのんびりした足音が かんかん照りの道に乾いた音を残す。
目深にかぶっていたキャップを ちょい、と取ってリュックを背負って。
でもすばるはちっとも暑くなんかない。 ご機嫌ちゃんで歩いてゆく。
このところ ず〜〜〜っと晴れ! だ。 昼間、気温はぐんぐん昇っている。
そして 毎日 < もうしょび > って言葉がTVやらオトナたちの会話から聞こえる。
「 もうしょび ってなに? 」
「 へ? やっだ〜〜 すばるったら知らないのぉ〜〜〜 」
何気なく聞いたら すぴかはなんだか < えんぎかじょう > に驚いてみせた。
「 しらない。 漢字ドリル にないよ〜 」
「 ドリルにない言葉はい〜〜っぱいあるじゃん?
もうしょび ってのはぁ〜 ものすご〜〜〜く暑い日 ってこと! 」
「 ふ〜ん へんなの〜〜〜 」
「 なんがヘンなのさ!? 」
「 だって〜 夏だもん 暑いの当たり前〜 」
「 けど < ものすごく > 暑い日ってのはそんなにないじゃん?
だから〜〜 ものすごく・暑い日 のことを〜〜 もうしょび っていうの! 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 」
な〜んかしっくりこなかったけど。 これ以上ツッコミすると すぴかの報復がおっかないので
すばるは大人しく口をとじた。
同じ日にお母さんのお腹から出てきたけど ・・・ すばるはなんとな〜く すぴかが
恐いのである。 ― お父さんやお母さんよりも。
ふん いいもんね〜〜 あとでおじいちゃまに聞くもん !
「 あ〜〜 僕、 オヤツもらって宿題し〜〜ようっと 」
「 へへへ〜〜〜ん♪ アタシはもうとっくにやっちゃったもんね〜〜 」
「 < ひと それぞれ > デス。 おか〜〜さ〜〜ん オヤツ〜〜〜 」
「 ち。 逃げたか〜〜〜 」
すばるはとっととキッチンに逃げ込んだ。
あ〜〜 ヤバ〜〜 すぴかってばす〜ぐケンカしてくるんだからな〜
同じ日に生まれた < 姉 > は。 4年生になってひょろり〜〜と背が伸びて
完全に文字通りの 上から目線 となった。
ケンカをすれば 父親似で口の重いすばるに勝ち目は全然ない。
そして ― もし 腕力に訴えても ・・・ 完全に負けてしまうだろう 今は。
「 僕。 姉さん なんていらない〜〜〜 お兄さんが欲しいよ〜〜う 」
すばるはちっちゃい頃からの願いなのだが 最近頓に強く思っている。
「 おか〜さん〜〜 オヤツぅ〜〜〜 」
「 はい すばる、どうぞ。 」
すばるがキッチンのドアを開けるのと お母さんがすばるのカップをテーブルに置くのとは
ほぼ同時だった。
「 うわぃ♪ ね〜〜〜 なに〜〜? 」
「 すばるの好きなミルク・ティとジャム・クッキーよ。 ほら 」
お母さんはにこにこ ・・・ お皿を見せた。
「 やたっ♪ あ ねえねえ お母さん。 クッキー、 もっとある? 」
「 え これじゃ足りないの? でもあんまり食べると晩御飯が 」
「 あ〜 僕だけなじゃくて。わたなべクンにも〜〜 これから一緒にJR見に行くんだ〜 」
「 あら 遊ぶ約束したの? 宿題を済ませてからよ〜 」
「 わ〜〜かってる〜〜〜 今 やるも〜〜ん だから〜〜 クッキー〜〜 」
「 いいわ。 それじゃ ・・・ サンドイッチ用の箱に入れてあげるわ。
どうぞ二人で食べてちょうだい。 二人とも甘いの、大好きですものね。 」
「 わ〜〜〜ぉ♪ サンキュ〜〜 」
「 ど〜いたしまして。 ・・・ あ JRって 駅までゆくの? 」
「 ぶ〜〜〜〜。 駅じゃね〜 スピード落とすから りんじょうかん がないんだ。
やっぱね〜 こう・・・ぶわっと生の風を感じないと〜〜 」
すばるはいっちょ前の口をきき、気難しい顔で頷いてみせた。
まあ〜〜 うぷぷぷぷ・・・ ナマイキ言って〜〜
フランソワ―ズは吹き出したかったが懸命に耐えた!
彼女のムスコは < いつもにこにこ・すばる君 > なのだが ― その芯は
名うての頑固モノであり、プライド高しクン だ。
母としてフランソワーズは 彼が赤ちゃんのころからイヤというほど知らされている。
「 そうですか。 」
「 そうです。 だからね〜〜 踏切のとこでみるのが一番なんだ〜
」
「 了解しました。 それじゃ ・・・ 宿題終わったらどうぞ。
あ 暑いから帽子をかぶってゆくのよ〜〜 」
「 わ〜かってま〜す。 あ 水筒ももってゆく〜 」
「 あら そう? それじゃ・・・ 冷たいお茶、いれとくわね。 」
「 さんきゅ〜〜〜 じゃ 大急ぎで宿題〜〜〜っと 」
ドタドタドタ ・・・ 珍しくすばるは子供部屋へと階段を駆け上がっていった。
「 ふ〜〜〜ん ・・・ だんだん < オトコノコの世界 > に行っちゃうのね ・・・
この前まで おか〜さ〜〜んって スカートの端っこを握ってたのに ね ・・・ 」
冷たいお茶を用意しつつ フランソワーズはなんだかスカスカ ・・・ 身体の中を
風が通り抜けるみたいな気分だった。
「 ・・・ ま 当然よねえ ・・・ もう4年生なんだもの ・・・
友達とどんどん遊びに行ってくれなくちゃ。 ああ せいせいするわ〜 」
口ではそんなコトを言いつつも お母さんはジャム・クッキーをぎっちり箱に詰め込むのだった。
サワ 〜〜〜〜〜 ・・・・・ !
熱い風が吹き抜け すばるのひょん!っと突っ立った髪を揺らしていった。
「 ぶわ・・・っとぉ〜〜〜 やっぱ帽子 かぶろ〜〜っと ・・・
え〜〜っと? あ〜 わたなべクン まだかな〜〜 だいち〜〜〜 いる〜 ? 」
すばるは JRの踏切までくるときょろきょろ見回した。
「 ん ・・・ まだかぁ いいや まだ電車来ないし。 よいっしょ・・・・っと。」
背負ってきたリュックを下ろし 中から時刻表を取り出す。
わたなべ君と一緒にルモア博士に時刻表の読み方を手ほどきしてもらって以来、
二人の愛読書となった。
小型版があることをお父さんが教えてくれたので 今では乏しいお小遣いをやりくりして
自分で買っている。
「 う〜〜ん・・・と。 ・・・ あと10分だな〜〜
だいちが来るまで 旅行計画 けんとうしよ〜〜っと。 」
すばるは マイ・時刻表 を片手に線路の柵の下段に腰かけて熱心にページをめくり始めた。
旅行、といっても 紙上旅行 ― つまり時刻表の上での旅で実際に出かけるわけではない。
しかし 二人の小学生男子 は、夢中で < 夏休み・北海道一周りょこう > プラン を
練りに練っているのだ。
「 う〜〜んとぉ ・・・ ○○駅ではど〜しても駅弁、食べなくちゃな〜〜・・・
ってことはぁ あ この駅、特急は止まんない〜〜〜 う〜〜ん ・・・ 」
かんかん照りの太陽の下、すぱるは あ〜でもない こ〜でもない と時刻表をめくり、
小さなノートにあれこれ書きこんでいる。
「 あれれ ・・・ こっち、乗り継ぎできないのかあ・・・ え〜〜 それじゃ
ちがう路線、考えなくちゃ〜〜 う〜〜ん ・・・ 」
すばるはもう完全に < 北海道一周りょこう > の世界に没入していて周りなんぞ
全く見えてはいない。
もっとも ― 真夏の真昼間、それも本数の少ないローカル線の踏切近く ・・・
通る人影もほとんどなかった。
・・・ すっ。 誰かの影が時刻表の上にかかった。
「 あ だいち〜〜〜 待ってたよ〜〜 もうすぐJR来るよ〜〜 」
すばるは時刻表から目を離さずに言った。
「 なにが来るって? 」
「 え? だから〜〜 JRの下り列車。 ・・・ えええ? 」
「 じぇ〜〜あ〜 ・・・ なに??? 」
「 だから ・・・ あれ??? 」
やっと目をあげたすばるの真ん前には ― 一人のオトコノコが立っていた。
「 ・・・ あ わたなべクンじゃ ないよ ね? 」
「 なんだよ〜〜 よっく見ろよ〜〜 」
「 ・・・・・ 」
すばるは炎天下で本を眺めていたので 視界がホワイト・アウト状態・・・
目の前の少年の様子がなかなか見えない。
「 お前な こんな日に外で本、読むもんじゃないぜ。 」
「 あ ・・・ う うん ・・・ あれぇ ・・・ 」
やっと目が慣れてきたが、 今度は目の前の少年にすばるはまたまたびっくりだ。
「 ・・・ 僕 が いる
よ ・・・? 」
「 なに言ってんだ? お前、暑さでアタマ やられたんとちゃう? 」
「 ・・・ え ・・・ そ そうかも ・・・ 」
すばるとよく似た瞳の少年は ぽんぽん言い放つ。
「 ・・・ あ でも髪の色、ちがうか〜〜 ・・・ お父さんみたいな色だな〜
え・・・ このコ、ちがう小学校なのかな? え 買い物の袋 もってる・・・ 」
「 なんだよ〜〜〜 じろじろ見るなってば! 」
「 え あ ご ごめん ・・・ 」
「 ふん、 本 読むなら部屋の中 だ。 いいなっ 」
「 うん ありがとう。 」
「 わかりゃ いいんだ。 じゃ な 」
その少年は よいしょ・・っと大きな袋を持ち直すとくるり、と背を向けた。
あれ? このコ 帽子かぶってない ・・・暑くないのかなあ・・・
「 あの これ! 貸すよ〜〜 」
すばるは自分の帽子をとって 後ろからその少年のアタマにのっけた。
「 うわ?? あ〜〜〜 驚いた・・・ なんだ〜〜お前? 」
「 ぼうし! 貸すよ〜〜 今日はとくべつ暑いんだもん。 」
「 へえ〜〜〜 貸してくれるってわけ?? 」
「 うん! その荷物、重そうだし〜〜 いいよ、貸すよ。 」
「 へえ ・・・ 叱られないか? 」
「 なんで? 」
「 だって オレ、教会のコだぜ。 それに < あいのこ > なんだぜ。 」
「 ??? 僕もね〜〜 教会にゆくよ? あいのこ? あ〜 僕もさあ
お父さんとお母さんの あいのこ だよ〜〜 あははは〜 皆そうだよ〜 」
「 へ ・・・ あ そっか ・・・ 」
「 うん。 だから つかって〜。 」
「 あ うん ありがと。 お前、なんでこんなトコで本 読んでたわけ? 」
「 あ〜〜 これ? これはね〜 本じゃなくてね〜 時刻表でね〜〜
あ 僕、 ともだち 待ってるんだ〜〜 」
「 ふ〜ん ・・・ ソイツとここでなにするんだ? 」
「 あ うん わたなべ君は僕の < しんゆう > で〜 一緒にJR見る約束なんだ。」
「 ふ〜〜ん ・・・ 誰も来ないぜ。 今日は休みなんじゃないのか〜 」
少年は ちょい と首を伸ばして踏切の向こう側を眺めたが すぐにすばるの方に視線を戻した。
「 そ! そんなこと、ないよ! ちゃんと約束したんだもん。 」
「 約束は破られるために存在するのさ。 」
「 う ・・・ く
でも・・・でも 僕たち しんゆうだし〜〜 ・・・ ! 」
「 はん! そんな甘い考えだとすぐに喰われるぜえ〜〜 」
「 ちがうもん〜〜〜 ちがうもん! わたなべ君 約束まもるもん!
・・・ くわれない もん〜〜 」
「 さ〜な〜 それはお前がきめることさ。 」
「 うっく ・・・! ・・・ で でも でも ・・・ 」
「 ま〜 一人で泣いてろ〜 オレは仕事があるんだ。 」
セピアの髪の少年は ふん・・・といった顔つきで荷物を持ち上げた。
「 ・・・ もう 帰るの ? 」
「 これさあ〜 俺らの夕食のじゅんび なんだ〜 だから大急ぎで帰らんと〜〜
あ これ ありがと。 本当に少しだけ涼しかったぜ。 」
彼はひどく大人びた言い方をして、すばるから貸してもらっていたキャップを差し出した。
「 ・・・ ね〜 ウチ 遠いの。 」
「 ああ? 俺んち かい。 山の手の外れのオンボロ教会、知ってるだろ? 」
「 しらない。 僕たちがごミサに行くのは〜〜 海岸通りの先の教会だよ。 」
「 ??? 海岸通り? 知らね〜な〜 」
「 あのさ ねえ ウチ、遠いんだったら それ・・・かぶってっていいよ? 」
「 それ・・・って これか? 」
少年は 手にしていたキャップを差し出した。
「 ウン。 だって今日 あついし〜 お荷物、多いでしょ? 」
「 へん、 これっくらいいつものことさ。
・・・ ありがと。 でも これは、お前かぶっとけ。 」
ぽん。 すばるのキャップは本来の持ち主のアタマに戻った。
「 あ ・・・ 」
「 じゃ な。 」
「 ! まって! そこまで・・・ 僕 荷物 いっこもつ! 」
ぷっくりした手が 買い物袋を持とうとした。
「 あ〜〜 お前、 持てるか? 」
「 も 持てる ・・・ さ! 」
「 ふ〜〜ん ? あ〜 でもいいのか? オレ 教会のコ だぜ?
そんなのと一緒にいて ママに怒られるぜ。 」
「 ??? なんで??? 皆 仲良く って お母さんも学校の先生も言うよ? 」
「 ま 一応はな〜 それに オレ ハーフだぜ? ほら この髪とか肌とか。 」
少年は 長めの髪をわざとばさりと振ってみせた。
「 は〜ふ??? 髪って ほら、僕とにてるよね〜〜〜 ほら ほらあ〜〜 」
すばるも ひょん! と跳ねた髪をゆすってけらけら笑う。
「 ふ〜〜ん あ お前もハーフなのか? いや お前 日本人か? 」
「 え〜〜 僕 日本人だよ〜 あ 僕のお母さんね、ふらんす人なんだ〜 」
「 へえ ・・・ あ もしかして山の手のお屋敷の子かなあ ・・・ 」
「 ?? おやしき? なんかわかんないけど。 ねえねえ その荷物 持つってば。 」
「 ん〜〜〜 じゃ 頼む。 踏切渡って左に行くと涼しい道があるんだ。 」
「 ん。 ・・・ あれ そんな道 あったかなあ〜〜 ま いいや。 う〜〜んしょっ!」
― 少年から受け取った袋は ものすご〜〜〜く重かった。
もしかしたらすばるが今まで持った荷物の中で 一番重かったかもしれない。
う〜〜〜〜 持てない・・・ かも ・・・
! でも! もつよ って言ったもん。
う〜〜んしょっ! が がんばる〜〜〜!!
すばるは 真っ赤な顔をして、足元もかなりふらふらしたけど、おも〜い袋をもって
よれよれ・・・少年の後を着いていった。
サワサワサワ 〜〜〜〜 ・・・ 涼しい風が木立の間を抜けてゆく。
< 並木道 > は 信じらないほどひんやりしていた!
「 ・・・っとぉ ほら ここでちょっと置けよ。 」
先にゆく少年は足を止めて 振り返った。
「 ふぇ〜〜〜・・・・ あ いいの? 」
「 ああ。 オレもいつもここで休憩してゆくから。 」
「 ・・・ っとぉ。 ひゃあ〜〜〜 すごいね〜〜 僕、こんな重い袋
持ったのはじめて! 君ってすごいね〜〜 こんなの両手でもってさ〜〜 」
すばるは そうっと袋を置くとぺたん、と座り込んでしまった。
「 ふ〜〜ん ・・・ 見た目よか根性あるんだな〜 お前。 」
「 こんじょう? ・・・ わかんないけど。
・・・ わあ〜〜 ここ すずし〜〜〜 ・・・ あれ? でもこんな道 あったかなあ・・」
「 へへへ ・・・ ここはオレが見つけたヒミツの路地さ。 お前には特別に教えてやる。 」
「 わあ〜〜い ありがと! わは〜〜〜 す〜ずし〜〜〜 」
すばるは 汗で張り付いたTシャツを バフバフ〜〜扇いだ。
「 ・・・ な〜 こっちの草のとこ、座れよ。 一番涼しんだ。 」
「 わ ありがと。 あ ・・・ でも いいの? お使いの途中でしょ?
はやく 帰らないといけないんじゃないの。 」
「 べ〜つにぃ〜〜 オレが道草喰ってくるの、ちゃんと知っててこんな時間に
出すじゃね〜のかなあ〜〜 いいさ べつに。 」
「 ふうん あ す〜ずし〜〜〜 あははは 〜〜〜 」
「 な? ここはさあ オレの秘密の場所なんだ。 」
「 ふうん ・・・ あ ねえ ねえ お茶 のむ? 」
すばるはず〜〜っと背中に背負っていたリュックの存在を思い出した。
「 茶ぁ? ・・・ オレ、 金もってね〜よ。 」
「 お金なんかいらないよ〜 ちょっと待って・・・ ほら 僕の水筒! 」
うんしょ・・っとリュックの中から 青い水筒を引っぱりだした。
「 このコップ 持ってて・・・ ほら〜〜 まだ冷たいよ〜〜 」
「 ・・・ これ 飲んでいのかい。 」
「 ど〜ぞ。 むぎちゃだよ〜〜〜 」
「 ・・・・ 」
少年は とても神妙な顔をしてコップを持ってとて〜もゆっくりと ― 飲んだ。
「 ・・・ うめ〜〜〜〜〜 ・・・ 」
「 あは〜〜 君もむぎちゃ すき? 僕 大好きなんだ〜〜 」
「 これ ・・・ 教会で寮母のオバちゃんが作ってくれるのとにてる ・・・
でも 教会のは冷えてないんだ。 」
「 ふうん? あ〜 もっと飲んでいいよ〜〜 」
「 いいよ お前の分 なくなっちゃうぜ。 」
「 あ じゃあ 僕も一杯 飲むね〜 ・・・ ん〜〜〜 おいし〜〜〜 」
二人の少年は麦茶で ・・・ 乾杯!気分で に・・っと笑いあった。
「 お前 ・・・ いいヤツだなあ〜 」
「 お兄さん かっこいいね〜〜 」
「 ふん そうかな〜 」
「 うん! きっとさ〜 もてお なんだよね〜〜 」
「 も もてお?? おい〜〜 意味 わかってんのかよ〜 」
「 うん。 きゃ〜〜っていうオンナノコがいっぱいいるヒトのことでしょ。 」
「 ・・・ あ〜 まあ そうかもな。
オレはだめさ、施設のコとは仲良くしちゃいけないって皆ウチで言われてるらしいし。 」
「 え〜〜 それってヘン〜〜 だって < 皆 なかよく > だよ〜 」
「 まあ 建前は な。 」
「 ・・・ たてまえ??? 」
「 そのうちわかるさ。 お前こそモテモテだろ〜? 」
「 僕 ・・・ 可愛い〜〜 って年上のおね〜さんやオバサンやおか〜さま方に言われるだけ。」
「 あ? そうだなあ〜 お前 可愛いよ〜 うん。 そりゃ年上にモテるタイプかもな。
でも 好きな女の子 いるだろ? 」
「 好きなおんなのこ? うん いるよ、 お母さん。 」
「 は?? 」
「 だ〜から〜〜〜 僕がいっと〜〜う好きなおんなのこは お母さん♪ 」
すばるは にこにこにこ〜〜〜 っと笑った。 ひまわりみたいな笑顔だ。
「 ・・・ お前 ほっんと・・・いいヤツだな ・・・ 」
< 天使の笑顔 > に 少年もついついつられて、いつの間にか笑みを浮かべていた。
真夏の日差しを避けてさわさわ通る風の中、二人の少年が笑っていた。
「 ・・・ まあ〜〜〜 大変でしたわねえ・・・ ええ ええウチは・・・
いえいえ どうぞお気になさらないで・・・・ 」
フランソワーズは固定電話の受話器を握ったまま びっくり顔をしたりぶんぶん首を振ったり・・大忙しである。
すぐ側のソファでは 博士とすぴかがノートを広げてなにやらアタマを突き合わせていた。
「 おか〜さんさあ・・・ 面白いよ〜〜〜 ねえ おじいちゃまぁ〜〜 」
「 うん? ・・・ あ〜 そうじゃなあ ・・・ すぴかの母さんは表情豊かじゃから 」
「 で〜もさあ 電話の相手には見えないのにね〜〜 びっくり顔したり〜 首ふったり〜 」
「 いいんじゃよ。 母さんも無意識に動かしておるのだから ・・・
ほい 我々は数字の世界に戻ろうじゃないか。 」
「 うん♪ え〜〜っと ・・・ わからない数 を □ にして〜〜 」
「 そうじゃよ〜 □を入れた式を書いてごらん。 」
「 ん 〜〜〜 っと。 それじゃ〜 ・・・ こう? 」
「 そうだな、ほらまず一つ 式が書けたぞ。 じゃあ 次は 」
博士は < X (エックス) を使った式 > の手ほどきをしているのだが
巧な指導なのですぴかはほとんどクイズっぽい気分で楽しんでいる。
「 ・・・ 〜〜〜 で ・・・ 〜〜 ん〜〜〜 □ = 3! だあ〜〜 」
「 正解。 すごいぞ すぴか。 」
「 えへへへ ・・・ おもしろ〜〜〜 これ♪ 」
「 ほう 面白いか。 いいぞ〜 これが数学の入口だ。 」
「 すうがく? 算数じゃないの? 」
「 今はな 算数さ。 じゃが 中学に進めば 数学、 もう立派な学問じゃ。 」
「 ふうん〜〜 なんかおもしろ〜〜〜 」
「 そうか そうか ・・・ それじゃ コレはどうかな〜〜 」
博士はすらすらと問題をノートに書いてゆく。
「 え これも わからない数 を □にするの? 」
「 そうじゃなあ ・・・ 今度は X ( えっくす ) にしてみようか。 」
「 わ〜〜 X ?? な〜んかひみつの暗号みたいで かっこいい〜〜 」
すぴかは もう夢中になっている。
「 いえいえご心配なさらずに ・・・ ええ ウチからそんなに遠くないですから。
それよりも だいちクン、お大事になさって ・・・ ええ ええ また ・・・ 」
お母さんは電話にむかって深々〜〜 とアタマを下げ そうっと受話器を置いた。
― そして 声高に宣言した。
「 ちょっと 迎えに行ってきますわ〜〜〜 」
「 じゃから答えは 迎えに !? ではなく〜〜〜 」
「 あはは〜〜 おじいちゃまでも 間違えるんだ・・・? 」
「 そりゃそうじゃよ。 ちょっと待っていておくれ、すぴかや。
フランソワーズ? どこに行くって? 」
「 ええ あの。 すばるを迎えに行ってきます。 」
「 うん? すばるは ほれ あのしんゆうクンと遊びに行ったのではないかな。
例の時刻表を大事そう〜〜にリュックに収めておったぞ。 」
「 まあ そうですの? いえ 今ね、そのわたなべクンのお母様から電話があって・・・ 」
フランソワーズは ソファの端っこに腰をかけた。
「 ああ あの坊主の家からだったのかい。 」
「 はい。 すばるはわたなべクンと待ち合わせて JRを見にゆく計画をたててて・・・
でもわたなべクンは プールから帰ったら急に熱がでてしまって・・・ 」
「 ほう? 大丈夫かの。 あのくるくるクセッ毛の坊主じゃろ。 」
「 はい。 それですばるに連絡したかったけど・・・ ほらウチは子供たちに
まだ携帯とかスマホを持たせてないから連絡のしようがなくて。
・・・ どうしよう〜〜ってお母さんに泣きついたらしいのですよ。 」
「 なるほど〜〜 よし すぴか。 今度はわからない数が二つ あるな? 」
「 う? う〜〜〜〜〜ん ・・・??? 」
「 それじゃ 片方を X もう一方を Y としてみよう。
それじゃ 式はどうなるかな?? 」
「 ? え〜と まずは ・・・ Xから攻めるゾ。 う〜〜〜んとお 〜〜 」
すぴかは 連立方程式への階段を上りはじめた。
「 それでね お母様が慌てて電話をくださったのです。 」
「 なるほど ・・・ なかなか行き届いた方じゃのう・・・ 」
「 ええ♪ お料理とかお裁縫がお得意で楽しい方ですわ。 」
「 うむ うむ ・・・ お すぴか。 式は二つ 書いてごらん。 」
「 ふたつ? ちがう式? 」
「 そうだよ。 始めはXから、次に Yから攻めてごらん。 」
「 うん。 あ〜〜〜 こう ・・・ かな? 」
「 博士 あの! 」
「 なんじゃな? ああ そうじゃよ すぴか。 ではもう一つ式を探そう。 」
「 う〜〜ん ・・・ ? 」
「 博士。 わたし、ちょっと あの小テツを探してきますわ 〜〜
いちおう キャップ被ってるはずですけど〜〜 ちょっとこの日差しは危険ですよね。 」
「 そうじゃなあ。 ああ 保冷剤をもってゆくといい。 まさか とは思うが・・・
熱中症にでもなっていたら大変だからね。 」
「 そうですわね、ありがとうございます。 じゃあ ちょっと行ってきます。 」
「 おじいちゃま〜〜 これで いいかな〜 」
「 お前も気をつけてな。 お いいぞ〜〜 すぴか! 式を二つ、書けたな。 」
「 えへへ ・・・ なんかおもしろい〜〜〜 」
「 そうか そうか〜 それでは これをなあ ・・・ 」
「 うん♪ 」
連立方程式に熱中している二人を置いて フランソワーズはそっと玄関から出ていった。
ぎん! 玄関の外は 突き刺すほどの光と暑さのシャワーだった。
「 うわ・・・ なんて暑さなの〜〜 蝉も鳴いてないわ・・・ 日傘 日傘〜〜っと 」
フランソワーズは慌てて日傘を広げ その下に縮こまって歩き出した。
足元には濃い影が 溜まる。 うなじからはたちまち汗がころがり落ちる。
「 ・・・え〜と ・・・JRの踏切ってことは ・・・ ふう〜〜
こんな日に電車なんか見てなにが楽しいのかしらねえ ・・・ オトコノコってほんとに
よくわからないわあ〜〜 」
ぶつくさ言いつつ彼女は地元商店街を抜けて JRの在来線の線路へと歩いていった。
線路は ― ゆらゆら・・・向こう側の景色が揺れてみえた。 陽炎がたっているのだ。
「 うわ ・・・ オーブンの中みたい・・・ あら? ウチのチビは〜〜〜っと? 」
母はきょろきょろ辺りを見回したが それらしい姿は見えない。
線路際には夏草が生い茂り 黄色やオレンジのカンナが花を咲かせているが 人影はない。
「 あらあ・・・ 諦めて図書館にでも行ったのかな 〜 ん ?? 」
きゃ〜〜〜 あははは ははは〜〜〜
どこかで少年達の笑い声がする。 003の耳がそのまだ甲高い声を拾った。
「 あ ・・・ 踏切の向こう かしら。 う〜〜ん と・・? 」
じりじり焼けそうな踏切を渡ると ― 彼女は脚を止めた。
踏切の少し先が 真っ白に輝いている。 その中に小さな影が ふたつ。
え・・・? なに・・・ なんなの ・・・?
― うそ。 わたしの < 目 > でもわからないなんて
でも! あの声は、 片方は絶対にすばるよ! ええこれは確か。
あのコの声は 生まれる前から聞いてたんだもの。
・・・ え〜〜い! あとは 勇気だけよっ!
「 ― すばる? そこに ・・・ いるの? 」
フランソワーズは えいや!と その光の中に足を踏み入れた。
「 ・・・うん? あ〜〜 お母さん 〜〜〜 」
「 誰? あ お前の母さんか? 」
二人の少年がぱっと振り向いた ― 同じ色の瞳が二組、彼女を見つめ・・・その時。
どっき〜〜〜〜〜〜〜ん ・・・ !
フランソワーズの心臓が 飛び上がりピルエットして〜〜 着地した。
う ・・・ そ ・・・
なに なに なに〜〜 このトキメキ〜〜〜
・・・ すばる ・・ じゃあないわ。
あのコ ・・・ だれ ?
「 お母さん〜〜〜 お使いのとちゅう? 」
クイクイ ・・・ 丸まっちい手が フランソワ―ズのブラウスを引っ張る。
「 ・・・ え・・・ ? あ す すばる ・・・? 」
「 なに〜〜 ねえ お母さんってば〜〜 どうか した? 」
赤っぽい茶色の瞳が じっと彼女を見上げている。 自分自身の一部とも思える見慣れたモノだ。
ちがうわ。 この瞳 じゃないの。
これは すばる、わたしのムスコの瞳。 これはよ〜く知ってるの。
けど あのコのあの瞳は ・・・
「 あ え ・・・ あ あの〜〜 お友達と遊んでいたの? 」
「 うん♪ あ〜〜 ねえ ねえ お兄さん、これ、僕のお母さん。 」
「 こんちは〜 」
少年はすばるのキャップをぬぐと ぺこり、とお辞儀をした。
「 こ ・・・ こんにちは。 暑いわね ・・・ 」
「 あの! ムスコさんに荷物もってもらいました。 ありがとうでした。 」
彼はまたアタマをさげた。
「 え まあ〜〜 そのなの? あのコ、ちゃんと持てた? 」
「 はい。 ・・・ オバサン? 」
「 ― え? 」
じ〜〜〜〜〜。 ・・・ どっきん♪
すばるとはほんのちょっと違う色の瞳がフランソワーズを見つめている。
「 あ あの? なにか・・・ 」
「 オバサン。 オバサンの目 キレイだね。 」
「 あ あら そう? ありがとう〜〜 君もとても魅力的な瞳よ? 」
「 え?!? 」
「 ??? なぜ そんなに驚くの? あなた、とてもステキだわ。 」
「 ・・・ そんな風に言うひと、始めてだ ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
「 ね〜〜〜 お母さん〜〜〜 わたなべクンはあ? 」
すばるが またくいくい〜っとブラウスを引っ張る。
「 え ・・・ あ! そうなのよ〜〜 わたなべクンねえ、熱が出ちゃったんですって。
お母様から電話があったの。 それで迎えにきたのよ。 」
「 え〜〜〜 そうなんだ?? そうかあ・・・熱なら しょうがないよ ね・・・ 」
「 そうね、でもねすぐに元気になりますって。 」
「 ・・・ うん ・・・ 元気になってからまた行く。 」
「 そうね そうしましょ。 ・・・ あ もう帰るの? 」
「 なに?? お母さん。 」
「 いえ ・・・ すばるじゃなくて その ・・・ きみ! 」
「 へ?? オレのこと? 」
両手に買い物袋を下げて歩き出していた少年は びっくりして振り返った。
「 そうよ〜〜 」
「 あ・・・ オレ ・・・ 買い物の途中なんで。 さよなら 」
「 あ〜〜 まって〜 お兄さん ・・・ これ! これ 食べて! 」
すばるはリュックから ジャム・クッキー入りの箱を引っぱりだした。
「 ね! これ〜〜 僕のオヤツなんだ。 だから ・・・ あげる! 」
「 え ・・・ お前のなんだろ? いいよ〜 」
「 あげるったらあげる! これ おいしいよ〜〜 」
「 でも・・・ 」
「 あら それなら半分コ! ね? 持って帰ってくれたらうれしいわ。 」
フランソワーズも息子と一緒に熱心に進めた。
「 これね・・・オバサンが作ったの。 自分で言うのもナンだけど、オイシイのよ〜
どうぞ〜〜 食べてくださいな。 ねえ すばる? 」
「 うん♪ 僕と〜〜 半分コ♪ ね〜〜〜 」
「 ・・・ ありがとうございます。 」
少年はまたまたぺこり、とお辞儀してジャム・クッキーを受け取った。
「 あ お母さん〜〜 帽子、貸したげてもいいよね? 」
「 帽子? ええ ええ いいわよ。 今日はとても暑いからどうぞ使ってね。 」
はい、 とフランソワーズは息子のキャップを少年に被せた。
セピアの瞳が 上目づかいに彼女を見つめる。
・・・! この ・・・ 瞳 ・・・ !
わたし ・・・ 知ってる ・・・!
あの時 ! あの島の海岸でわたしを見上げてた あの瞳!
「 お オレ ・・・ オバサンみたいな人 り 理想だ ・・・! 」
ぺこり。 彼はもう一度アタマをさげるとくるり、と踵を返した。
そしてもう振り返らずに どんどん行ってしまった。
真っ白な光の中 去ってゆく少年を、 フランソワ―ズはすばると並んで見送った。
「 ・・・ お母さん 」
「 え なあに すばる。 」
「 お家に帰ろうよ。 すぴか 待ってるでしょ。 」
「 え ええ そうね。 お家に帰りましょう。 」
「 ん〜〜〜♪ 」
きゅ。 ・・・きゅ。
ぷっくりした手が彼女の手を握ってきた。 白い手がしっかり握り返した。
― 久しぶりに フランソワ―ズは息子と手を繋いで歩き始めた。
「 うう〜〜〜 ・・・ き〜もちい〜〜〜 」
ジョーが ガシガシと髪を拭きつつ、バスルームからリビングに戻ってきた。
「 ウチはやっぱ涼しいよ〜〜 風が違うよなあ〜〜 」
「 そうねえ ・・・ あ なにか飲む? 」
「 う〜ん ・・・ あ 麦茶。 」
「 了解。 ― はい どうぞ。 」
ちりん。 冷え冷えのグラスがジョーの前に置かれた。
「 サンキュ。 ・・・・ ン〜〜〜〜〜〜 んまい〜〜〜♪ 」
「 ふふふ ・・・ あ ねえ ジョー ? 」
「 〜〜〜ん〜〜 なに? 」
「 あのねえ ・・・ 子供のころにね ・・・ 」
彼女は 言葉を選んで帽子とジャム・クッキーのことを訊ねたのだが ・・・
「 え ・・・ 帽子? う〜〜〜ん ・・・?? さあ 覚えてないけど?? 」
「 ジャムクッキー? あ! アレ、美味いよねえ〜 また作ってくれる? 」
彼女の夫は 実に無邪気に答えるだけだった。
まあ ・・・ ! なんなの〜〜〜
よ〜し それじゃ!
「 ねえ? ・・・ 小さい頃って。理想の女性ってどんな人だった? 」
「 え??? う〜〜〜ん ・・・ 忘れちゃったなあ〜〜 ・・・ 」
「 ・・・ あ そ ・・・ 」
「 なに? 今は理想の女性を奥さんにしてるんだもん、そんなムカシのことなんか
もう覚えちゃいないさ。 ね? 」
するり。 長い腕が彼女を抱き寄せた。
― オトコなんて! そうよ そんなモンなのよね ・・・!
************************ Fin.
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Last updated : 08,12,2014.
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********* ひと言 *********
後半も例によって なにも事件は起きません〜〜
ちび・ジョー君が差別用語を使っていますが
時代背景として目を瞑ってくださいませ <m(__)m>